Phasemation フェーズメーション

colums会長のコラム

会長のコラム 157

10月は、当社の新商品発表の季節であり、例年通りの多忙を極める10月でした。今年の新商品は、フォノ・カートリッジのPP-2000とイコライザー・アンプのEA-500の2機種となります。
フォノ・カートリッジPP-1000は、現行商品の最高級品でありますが、既に3年を経過しています。当社のムービング・コイル型フォノ・ピックアップ・カートリッジは、磁性体をボビンとしたムービング・コイル型と言われ、見掛け上は簡単な動作に見えます。しかし、その動作原理は複雑で、3年前に発売したPP-1000が究極の性能と思っていたのですが、この間、我々の技術力を出し切っているかとの反省を踏まえて、更に極めて見たところ、当社の加工技術と組立技術の極限に挑む余地がまだ有りと判断し、トライした結果、音質の向上と出力アップに大きな結果を齎しました。
磁性体のボビンにコイルを巻く形のフォノ・カートリッジの磁気回路は、電気磁気学的に解析すると見掛けに違わず複雑であります。コイルと磁界が直角に位置す
る時、その出力電力は最大になります。構造は、コイルの位置する両側にポール・ピースとヨークによって平行磁束を作るのですが、この構造がスピーカーの様にコイルが空芯でない為に単純では有りません。そのシュミレーションを繰り返し、精密加工部品を多数作って試作を行います。PP-1000と新商品PP-2000の主要部品の材質は殆ど変りませんが、大きく違うのはヨークとポール・ピースの形状です。しかも見た目には殆ど差を感じません。しかし、出力電圧、セパレーション、音質は大きく変わります。オーディオは何をやっても音が変わると言われますが、我々の音質改善は理論に沿ったものであります。オーディオ・デバイスは、振動を伴うので制振技術も必要ですが、カートリッジの場合、電磁気学の原理原則を無視し、出力電圧値を実力以上のカタログ定格値として表示するような「ふととき業者」も見かけます。
PP-2000の原価は、我々の開発コストによって上がりますが、それ以上の価格アップをお客様に求めることは致しません。「音」と「コスト」のバランスに注力頂きたく思います。と言うことで、磁気回路設計の限界を極めたのが新商品PP-2000であり、特別な意味を含めたモデル番号なのです。次の商品に対する我々の決意は、スタイラスを始めとして、設計をゼロから始めます。更なる新しい音の世界を目指す事に無限の喜びを感じ、新しいアナログの世界を築きます。
次に、フォノ・イコライザー・アンプのEA-500に付いてお話します。現行商品のEA-1000は、お蔭様で企画台数を上回る販売成果を得ることが出来ました。本機は、真空管回路の商品であり、特殊な技術が必要の為に製作に手間がかかります。従って、リーズナブルな価格帯の商品を作ることが難しいのです。それを、我々の技術で半導体アンプを限りなく真空管の「音質」に肉薄出来ないか、それによって、我々の求める「音」をリーズナブルな価格帯で市場に提供出来ないかを真剣に考えた結果が本機なのです。完成までに多くの評論家の先生方や識者の方々に聴いて頂き、EA-1000に太刀打ち出来る商品を目指しました。新生フェーズメーションの心意気と言えるものであります。

毎年恒例のオフィス・アミーチ社主催の秋刀魚パーティーが好天気の下で10/3に行われ、
ました。当社の広報活動を請け負うオフィス・アミーチ社の屋上にはメディア関係の会社様のご担当者や音楽関係の方々、オーディオ評論家の方々が大勢お見えになり、盛大に行われました。主役の秋刀魚は、バイオリニストの黒沼ユリ子さんが、お住まいの御宿から届けて頂いたもので、当日は秋刀魚と共にお見えになりました。年々、多人数参加者となり、2次会のアトラクションも豪華 ? になってきて、今年はお二人の女性ジャズシンガーの出演と言う豪華なものになりました。

新装になった青山の超予約困難な「レストラン・フロリレージュ」に吉本様ご夫妻からお招き頂きました。このレストランは、以前にも増してその美食度が冴えていました。そして今月、私にとっての最大イベントでありましたMJ誌の拙宅取材を無事に終え、安堵したところです。この記事は、私が今までこのコラムに書き続けてきたチャンネル・デバイダー・システムの集大成であり、MJ誌の12月号に掲載予定です。この記事のご高覧をお願いし、本コラムでの詳細は別途、切り口を変えて記載しようと思います。

今月の音楽ライフです。先ずは、10月1日 新国立劇場の今シーズン初日公演のワーグナー/「ラインの黄金」に19.00時開演で行ってきました。今回の「ラインの黄金」は、今シーズンから始まる最大スケールのオペラ「ニーベルングの指輪」四部作を3年がかりで上演する序夜に相当する部分で、2016年秋に「ワルキューレ」、2017年の初夏に「ジークフリート」、そして同年秋に「神々の黄昏」で締めくくるシリーズです。この「ラインの黄金」も2時間45分の長い演奏時間で、当日は休みなしの公演でした。それでも、19時の開演ですから終演は22時近くになります。今の体調ですと、この間のトイレは何とか持ちこたえられますが、やがては不可能になるでしょう。当日は何時ものホテルに宿泊し、終演後に食事を摂り、帰宅に掛かるストレス排除に勉めました。
ワーグナーは、1848年にこのオペラを書き始め、1874年に完了しました。その完成までの間
に「トリスタンとイゾルデ」と「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の2つのオペラを完成しております。ワーグナーの才能には、ただならぬものがあるとの感じですが、その反面、ワーグナーを崇拝する後輩のハンス・フォン・ビューローの妻コージマとの結婚、反ユダヤ主義、宮廷楽長にも関わらず市民革命に参加するなど、強烈な性格を持ち合わせており、亡命せざるを得ないと言う、生活の紆余曲折の末にこの大作が完成しています。ワーグナーの作風を時代系列として追ってみると、私は「トリスタンとイゾルデ」あたりから作風が大きく変わるのを感じます。指輪四部作の序夜に位置する、この「ラインの黄金」は、後期の作風に相当すると感じており、事実その時系で作曲されたようですが時代などは不明であるものの、この四部作の最後の方に台本が完成されたようです。だからと言ってストーリーに矛盾が生じると言う事も無く、序夜として良い方向で纏まっていると思います。
そして、四部作最後の幕であり、作品となる「神々の黄昏」の後半部分からその作風が目に見えて変わってきて、「トリスタンとイゾルデ」や「パルジファル」などと同じ作風を感じます。何と言ってもただならぬ長編大作ですから、時代経過とともに、作曲家の心境や作風に変化が生じるのでしょう。私は、音楽の素人で感覚的な発言しか出来ませんが、ワーグナーの後期の作品には痺れるものを感じてなりません。そしてこの作風は、R・シュトラウスへとつながって行くと考えています。
ワーグナーの後期作品とR.シュトラウスへ繋がる、その時代の音楽は、私にとってオペラの終焉を予測してしまうのですが、経営に携わる日々を過ごした私としては、更にワーグナーを知る事は、私のライフワークとして充分な題材です。これからの人生を楽しみにしてくれる原点であります。オペラと言う芸術文化の継続が此処で切れたとしても、私の寿命の限りでありますから、余計な心配は無用と心得るのです。

10月10日14時開演で神奈川フィル定期演奏会に、みなとみらいホールに行ってきました。
演奏曲目は、ショスタコーヴィチ/交響詩「十月革命」とヴァイオリン協奏曲1番、そして後半ステージが、シベリウス/交響曲5番でした。
指揮は、常任指揮者の川瀬賢太郎、コンサート・マスターが崎谷直人、何時もの定番でした。そしてヴァイオリンのソロが三浦文彰、神奈川フィルとはお馴染みとなりましたが、ウイーンに在住しヨーロッパで活躍している若手で、指揮者の川瀬とは若手同士と言うことで気が合うのかも知れません。何れにしろ、勉強熱心な川瀬であり、抜群の演奏技術を持つ三浦のコンビは将来とも見逃せません。
シベリウスの交響曲5番は、1915年にシベリウス50歳を記念して、その公演が計画され、しかも国民的作曲家としての立場上そのプレッシャーは大きかったようです。構成がまとまらず苦慮していたと言われ、12月8日の演奏会ではかろうじて4楽章まで書き終え初演されたものの、その後何度も書き直され、シベリウスがこれ程何度も書き直した作品は後にも先にも無いと言われています。そして、私がこの曲を聴くのは初めてでありました。
終楽章は、ハンマーを打ち付けるように鋭く放たれ、輝かしく終結する、他に例の無い終わり方が印象に残りました。

鈴木信行 :すずき のぶゆき

昭和45年勤務先のアイワ株式会社をスピンアウトして独立。

磁気記録に関る計測機器の製造販売の事業を開始し、その後カーエレクトロニクスの受託設計の事業を始める。

何れの事業も順調に発展したが、会長の永年の思いであった、ハイエンドオーディオの自社ブランドを立ち上げ、現在はカーエレクトロニクスの事業を主とし、協同電子エンジニアリング(株)として運営している。

現在、協同電子エンジニアリング(株)の取締役会長として、趣味のオーディオを健全に発展させたいと真摯に研究し、開発に勤めている。

インタビュー掲載

コラムアーカイブ