会長のコラム 077
1. 最近見つけたお勧めCD
2. スピーカーの話
3. 7月のコンサート
1. 最近見つけたお勧めCD
私が最近購入したCDで、「音が良い、演奏が良い、企画が良い」と言うような「良い事づくめ」のCDを紹介します。今回ご紹介するものは、私が普段から注力していた演奏家のものですが、これからもこのコラムでCDのご紹介をしたいと思います。評論家先生が良いと言っているものを購入したら良かったとか、コンサート会場で衝動買したものとか、など色々な動機で購入したものを紹介したいと思います。それは、音楽好きのオーディオマニアに向くものであり、私の独断と偏見かも知れませんが、私好みものを取り上げたいと思いますので、ご意見など有りましたらお寄せ下さると嬉しいです。
今月紹介するのは、「ヴィヴァルディズム」と言うCDです。ヴィヴァルディの作品を集めたもので、「万葉びと」と「ヴィヴァルディびと」の副題が付けられ、「万葉びと」の感性は現代に於いても人々の心にしみわたる事をテーマにして選曲企画したもので、演奏が素晴らしいうえに、録音が素晴らしいものであります。
演奏者は、タイトルからイメージするような古色蒼然的ではなく、近代的なスピード感に溢れた素晴らしい演奏であります。それもその筈でメンバーは全て現代日本のトップクラスの奏者で構成されています。例えば、バイオリンの松野弘明、チェロの木越洋、コントラバスの黒木岩寿など説明の必要の無い人達の集まりであります。最近の傾向として、CDが売れなくなり大手のレコード会社や販売会社が殆ど死に体の状態である一方で、マイナーレーベルの会社が素晴らしい作品を作り続けております。それは、技術の進歩も有ると思いますが、一頃の大手CD製作会社の時代よりも音質、企画、内容共に良いものが多いと思います。本CDは、TY社のサポートによるもので「molto fine」と言うマイナーレーベルですが大変素晴らしい作品であり、スタジオ音源の24Bit 96kHzの音を聞いてみたいとの欲望を掻き立てられてしまいます。
本CDの発売元は、ユニバーサルレコードで、HMVのサイトから購入出来ます。
2. スピーカーの話
最近、発売されるスピーカーは、まるで、申し合わせたようにスリムなトールボーイ型になっています。これには、回析効果を避けると言う技術的根拠もありますが、この面での解決方法はこれ以外にも有りますから、他の理由としてAVスクリーンに邪魔にならないようにとの配慮とも考えられます。このトールボーイ型のスピーカーはどれも大変素晴らしい物理特性を持っており、特性から想像出来るように音も大抵綺麗ですし、音質もメーカーによって夫々特徴が有って選ぶのに苦労しますが、従来の大型スピーカーの様な設置の苦労に対しては比較的に楽なようです。
嘗て、剣豪作家の五味康介も大変なオーディオマニアで、一時「ステレオサウンド誌」で技術者との論議を賑せていた事は有名であります。私も独身貴族時代は氏のオーディオマインドを100%信じて氏の主張する機器をそっくり購入したものですが、その後は自分の主張もはっきりしてきて、スピーカー以外は全て入れ替わりました。その後、生活に余裕が出来るようになって、リスニングルームを新調した時に、最後まで頑張った五味康介推奨のオートグラフが駄物になってしまった事が記憶に蘇ります。この事は五味康介も言っていた事ですが、オートグラフと言うスピーカーは部屋を選ぶ厄介ものとの実体験を受けたわけです。その結果、15年の付き合いに終止符を打つ事になるのですが、今考えると私のオーディオ道の未熟さによる判断だったとつくづく思うのであります。
最近の事として、当社のリスニングルームに迎え入れたJBLのエベレストでありますが、部屋の特性上で最良のポジションを選んで写真の様に設置しました。しかし、この試聴室を訪問される多くの方々が一様に低音不足を言われます。我々もそれを認めていましたが、この位置での音質は鮮度が良く奥行き感が出て機器の評価には好都合でありました。しかし、この音質を維持しつつ低音を出してこそフェーズテックの技術だなど言われると「何だと!」と言う意地が湧いてきて、やっぱり、低音対策に取り組んだわけです。
そこで、良く見られるように左右のスピーカーをセンターに近付けて設置してみましたところ、今度は低音がボン付いて聴くに耐えない結果になり、今までの低音不足とはまるで異次元です。取り扱い説明書には、設置の位置と音質に関係する項目は有りません。それはその筈で部屋の構造やその音響特性を一様に述べる事は出来ないからです。
さて、これからが大変です、この重たいスピーカーの最良設置点を求めて悪戦苦闘の連続になるのですが、ここで先のタンノイ・オートグラフの経験を思い出すのです。考えてみると、無理も無い事で何れも大型スピーカーが訳も無く部屋に素直に収まるはずは無いのです。床との反射、バックのポートと背面壁の関係、しかも背面壁は吸音壁と反射壁が交互になっております、対面壁とのスタンディングウェーブなど限り無いパラメーターが存在します。
始めの特性重視の位置に戻そうとも思いましたが、此処までやったのだからとことん極めてやれと思いまして、何とか低音のボンツキはそこそこ解決しました。この騒ぎで感じたことですが、良いスピーカー悪いスピーカーとは何か、好きな音のスピーカーは何かと考えたとき、そのスピーカーの隠れた実力を的確に読み取る事が大切で、実力のあるスピーカーは部屋の条件が合えば必ず自分の感性に沿った音を出してくれるものと信じてトライする事が肝要と改めて気がついた事です。大型スピーカーの設置は自分の感性を信じて追い込んでゆくしか方法は無いと思うにいたりました。
しかし、大型スピーカーは厄介なもので、重い、大きい、感度が良い、それに部屋を選ぶ、置き場所を選ぶので、導入に際しては余程の覚悟が必要と言う事のようです。過去に私が駄目と判断した物たちが、実は名機であり、私の追い込み努力の不足であったかも知れないと言うことに、遅まきながら気が付いた次第です。
3. 7月のコンサート
7月の音楽ライフは、恒例の高輪オペラの会、表参道の友人宅での演奏会などが有って夫々に面白い場面があったのですが、紙面を他の話題に割く事にして、今回は神奈川フィルハーモニーの7月定期演奏会に付いてお話しする事にします。ゲスト指揮者がサッシャ・ケッツエル、この人は、ウィーン生まれのヴァイオリン奏者でありましたが指揮者に目覚めて、指揮者へ転身し指導を受けた指揮者たちは「音楽的にも技術的にも非常に才能がある」と評され、ズビンメータが「熱意があり、ずば抜けた才能を持った音楽家」と断言しております。更にリッカルド・ティーなど高名な指揮者の指導を受けており世界中の一流オーケストラとの共演実績があって、今回の神奈川フィルの指揮にも大きな期待が寄せられていました。
当日の演目は、モーツアルトのモテット/「踊れ、喜べ、汝幸いな魂よ」とマーラーの交響曲第一番「巨人」と言う馴染みのあるもので、特にソプラノの森麻季には、この曲との相性が良いのではないかと期待しました。
指揮者のケッツェルさんは、モーツアルトの演奏に定評があり、コンサート前に行われたロビーコンサートでも、主席奏者の山本裕康さんが期待してほしいとコメントしていました。当日は、最初にモーツアルト/アダージョとフーガが演奏それ、素晴らしいモーツアルト演奏があり、それに続いて演奏されたのが、森麻季のモーツアルト/「踊れ、喜べ、汝幸いな魂よ」でした。この聴きなれた曲、そして、多くのソプラノ歌手が歌っており、レコードも沢山あります。クラシックの好きな方は誰でも知っていると言っても過言ではない曲でしょう。彼女は日本のソプラノ歌手では今人気№1でしょう。当然の事、期待は大きく膨らみますから彼女には気の毒ですが、例によって、声の細さ、そしてフォルテでは「どなる」傾向となってしまいます。それがフルオーケストラとの共演ですからなおさらです。当日は森麻季が出ると言うことで、ほぼ満席状態ですから関係者はもちろんの事、音楽界にとっても大変ハッピーな事で、歌い終わっての拍手は鳴り止まず何度も呼び出されていましたから、私ごときがこれ以上つべこべ言うのはやめましょう。
次に当日のプログラムのメインであります、マーラー/交響曲一番に付いてです。この曲は生で聴くときの印象がレコードとはまるで別な曲を聴くほどの感銘を受ける曲の部類でしょう。当日の舞台上は、大掛かりな楽器編成で大太鼓が2台も登場していますし、管楽器群の陣容も雄大になり、オーディオ装置での表現とは異次元のものとなるのは当然と言えます。このスケールの曲はオーディオマニアたる者は、是非とも生演奏を体験し、「らしさ」の再生に感性を磨くべしと常々思っております。
私も当日は、久し振りに命の洗濯とオーディオへの新たなる思いを募らす事が出来ました。